右脳の解放

スポーツサイエンティスト,衣笠泰介が日々感じること,感動した言葉,音色,風景などを思いのまま綴る. Think globally, act locally

[http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100901ddm035050062000c.html:title=インサイド:ユース五輪 未来への礎/2 教育の意義大きく@毎日]

 シンガポールで開かれたユース五輪の陸上女子走り高跳びで銀メダルを獲得した17歳のアレシア・トロスト(イタリア)は、競技の翌日、選手村のブースでパソコンと向き合った。ドーピング(禁止薬物使用)の危険性を理解してもらおうと、世界反ドーピング機関(WADA)が設置したシミュレーションゲームに取り組んでいた。

 アスレチックコースの通過タイムを競うゲームだが、競技の間に「ドーピングをしますか?」「どんな練習をしますか?」「何を食べますか?」などの設問に答え、その結果がキャラクターの能力に反映される。ドーピングをした選手は競技後の検査で違反がみつかり、優勝トロフィーが粉々になる。不正をすれば何も得られないメッセージが込められている。陸上の09年世界ユース選手権優勝者でドーピング検査には慣れていたトロストだが、「今までは検査をやらされているという意識だった。自分を守ることになるし、なぜ必要かが分かった。ドーピングをしているアスリートは本当のアスリートじゃない」と真剣なまなざしで話した。

 ■反ドーピング学ぶ


ブブカさんらとの交流会の会場は、選手の熱気に包まれた=長谷川直亮撮影
 ブースを運営していたWADAの教育担当マネジャー、デビッド・ジュリアンさんは「トップ選手になれば厳しいドーピング検査を求められる。その時に教育をしても遅い。若い選手にこそ、ドーピングの怖さを学んでほしい」と力説した。

 若者がなじみやすいように、簡単なゲームやタッチパネルを利用したものが目立った。選手村を視察した日本アンチ・ドーピング機構アスリート委員会の田辺陽子委員長も「若い選手にはゲーム形式の方がとっつきやすい。日本も年代別に啓発の方法を変えている」と語る。

 従来の五輪とは異なり、ユース五輪では、自分の競技を終えた後も閉幕まで選手村に滞在するよう求めた。競技への理解、人間性をはぐくむ教育プログラムを経験してもらうためだ。大会組織委員会は選手村に反ドーピングや五輪の精神、歴史的経緯を学ぶブースなどを設置。選手村外での活動も含めて50の文化・教育プログラムを用意した。選手は競技の合間や終了後に興味のあるプログラムに参加していた。

 ■チャンピオンと会話

 特に盛況だったのは、「チャンピオンとの会話」と題したトップ選手との交流会。約300席用意した会場に入り切らず、隣室のモニタールームにも選手を入れ、1回に600人ほどの選手が参加した。陸上男子二百メートルの本間圭祐(神奈川・橘高)は、棒高跳びの世界記録保持者、セルゲイ・ブブカさん(ウクライナ)から、敗戦後に次の目標に向けて全精力を注ぎ込む気持ちの切り替えの大切さを学んだ。今年の全国高校総体では優勝候補に挙げられながら左太もも痛が響いて7位。「インターハイでの負けを引きずっていたけど、ブブカさんの言葉で吹っ切れた」と笑った本間は、見事に銀メダルを獲得した。ブブカさんは次代を担う選手たちについて「将来、オリンピックムーブメント(五輪精神を広める運動)の偉大な大使になる」と期待する。

 教育プログラムの現場を見ると、パソコンのマウスの使い方が分からない途上国の選手や、言語の違いでコミュニケーションを取りにくいような選手もいた。それでもスタッフのアドバイスを受けながら、次第に理解し、打ち解けていく光景が見られた。世界各国、育った環境はさまざまで、まだ14〜18歳の若者たち。だからこそ、国際大会で交流し、教育を受ける意義は、大きい。【井沢真】=つづく