右脳の解放

スポーツサイエンティスト,衣笠泰介が日々感じること,感動した言葉,音色,風景などを思いのまま綴る. Think globally, act locally

毎日新聞の井沢真さんがユース五輪のレポを掲載してる.本当に日本での報道が少ない中,ユース五輪をここまで掘り下げてくれた井沢さんに感謝します.

インサイド:ユース五輪 未来への礎/1 関心低い国内メディア@毎日

 国際オリンピック委員会(IOC)が新設した若者の祭典「第1回ユース五輪夏季大会」が13日間の日程を終えて26日に閉幕した。勝敗よりも、選手の教育、文化交流に軸足を置いた大会は、勝利至上主義やドーピング(禁止薬物使用)のまん延など現在の五輪が抱える課題に向き合う一歩でもある。若者のスポーツ離れを食い止め、五輪本来の価値を取り戻せるか。未来のオリンピアンを育てるユース五輪の実情に迫った。【井沢真】

 閉会式でIOCのジャック・ロゲ会長は選手たちに誇らしげに語りかけた。「君たちはスポーツと教育、文化交流を融合する挑戦を見事に遂行した。単なる勝者ではなく、真のチャンピオンになるとはどういうことかを学んだ。君たちは今、『若きオリンピアン』の称号を手にした」

 ■ロゲ会長「大成功」

 大会組織委員会は約32万人が観戦し、約1750人の報道関係者が取材に訪れたと発表した。開閉会式のチケットはすぐに売り切れ、陸上、競泳、体操など人気競技の会場は盛況だった。スポンサー獲得も77社にのぼり、ロゲ会長は「予想をはるかに上回る成功」とアピールした。

 IOCのジルベール・フェリ五輪統括部長は「18年以降の(夏季)大会には、少なくとも17カ国が開催に関心を示している。米国オリンピック委員会とも話をした」と明かした。米国は今大会の参加辞退をちらつかせていた。選手を閉幕まで選手村に滞在させ、文化・教育プログラムに参加させるIOCの方針に対し、他の国際大会との日程調整から難色を示していたのだ。その米国の態度の変化は、すべてが手探り状態だった大会の評価の変化を物語っていた。

 本格的に競技がスタートした15日。トライアスロン女子で歴史的な大会第1号金メダルを獲得したのは、佐藤優香(18)=トーシンパートナーズ・チームケンズ=だった。大会中は地元市民や外国の選手から握手やサイン攻めにあい、テレビの取材も相次いだ。佐藤は「スーパースターになった気分です」と照れ笑いを浮かべた。

 ■日本はTV中継もなし

 しかし、こうした現地の盛り上がりは、日本にはあまり伝わらなかった。テレビでは開閉会式の様子を含めて大会中の中継はなし。IOCによると、166カ国・地域がテレビ放映権を取得したが、リストの中で日本だけが空欄のまま。従来の五輪はNHKと民放で構成するジャパンコンソーシアム(JC)がIOCと契約しているが、今回は放映権獲得に乗り出さなかった。

 NHKの広報担当者は「8月は全国高校野球や中学、高校の総合体育大会の中継があり、総合的に判断しました。ニュース番組の中では、状況に応じて報道するように努めています」と説明する。

 大会前に各局を回って、テレビ中継を依頼した日本オリンピック委員会竹田恒和会長は「いろいろと頼みに行きましたが、残念です。知名度がない『これからの選手』は、ネームバリューがなくて難しいと言われた」と渋い顔だ。五輪評論家の伊藤公さんは「結局、日本はトップ選手の勝ち負けしか報道しない。基準を改める時期にきているのでは」と語る。

 ユース五輪が閉幕した26日、国内では文部科学省が今後のスポーツ政策の方向性を示す「スポーツ立国戦略」を発表した。五輪でのメダル獲得目標を掲げ、「国際競技大会などにおける日本人選手の活躍は、国民の意識を高揚させ、社会全体の活力となる」などと記している。依然、メダル獲得が国家の存在感を高めるという視点は変わっていない。

 ロゲ会長は選手村を訪れた際に、こう語った。「私は国家間のメダル争いに興味はない。国と国との争いではなく、個人が競い合う大会なんだ」。ユース五輪の理念を浸透させるには、まだ時間が必要だ。=つづく