右脳の解放

スポーツサイエンティスト,衣笠泰介が日々感じること,感動した言葉,音色,風景などを思いのまま綴る. Think globally, act locally

[http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100904ddm035050066000c.html:title=インサイド:ユース五輪 未来への礎/5止 「本家」改革の試金石@毎日]

 ユース五輪(シンガポール)では、将来の五輪改革につなげようと、競技内外で実験的な試みが行われた。

 若者のスポーツ離れを防ごうと、遊びの要素を取り入れた3人制バスケットボールのスリーオンスリー。メダル争いによる勝利至上主義に陥らないよう、国や地域を超えて男女混合チームの種目を採用したトライアスロンや柔道などは、そのいい例だろう。

 ■混合種目に好意的

 ユニークな種目を実際に観戦して回った国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長は「スリーオンスリーはとても興奮する。ルールも分かりやすい」と評価した。五輪で採用することには選手の人数が増えて肥大化につながる可能性もあるため、まだ慎重姿勢だが、国や地域を超えた男女混合種目は「とても面白い。将来の夏季五輪に加えることも考えている」と好意的だ。競技外での文化・教育プログラムについても「五輪に組み込めるものもあるのではないか。異なる年代にどう適応させるかを考えなければ」と実現の可能性を感じさせた。

 こうしたロゲ会長の思いを、五輪開催を控える関係者はどう受け止めているのか。12年ロンドン五輪組織委員会のセバスチャン・コー会長は「改革を恐れてはいけない。私たちは時代と共に変化しなければならない」と賛同した。12年の第1回冬季ユース五輪(オーストリア・インスブルック)では、ノルディックスキーで女子ジャンプが採用される。本家の五輪では競技人口不足などで慎重論が強いが、試験的な実施で成果を見極めようと改革は進んでいる。

 16年リオデジャネイロ五輪組織委員会のカルロス・ヌズマン会長も「五輪の原点を見つめ直す趣旨には賛成だ。教育を大事にする理念も素晴らしい」と受け止め、「未来のオリンピアンはシンガポールから生まれる。すべての選手にリオはドアを開いて待っている」と笑顔で語った。

 ■消えない政治の壁

 今大会は、選手村などの競技外だけでなく、試合の場での交流も話題になった。近代五種の男女混合リレー種目では、米国の男子選手とキューバの女子選手が、国家間の政治対立の壁を越えてペアを組み、笑顔で健闘をたたえあった。一方、テコンドー男子48キロ級決勝では、イラン選手が準決勝での負傷を理由に棄権した。決勝の相手、イスラエル選手の側は政治的対立を理由に戦うのを拒んだと訴えた。真相は不明だが、後味の悪さが残り、政治とスポーツの壁が完全には消えていないことも実感させた。

 トップ選手の参加方針も国ごとに対応は分かれたが、日本オリンピック・アカデミー(JOA)理事で五輪運動に詳しい首都大学東京の舛本直文・大学教育センター教授は「ユース五輪はIOC委員になるような国際的視野を持ったアスリートを育成する場になるだろう。日本のトップ選手も高い意識を持って参加してほしい」と期待する。

 大会そのものだけで、ユース五輪の価値は測れないだろう。将来を担う若者たちが2週間の経験を財産に変え、どう生かしていくか。この大会を経験した“若きオリンピアン”が五輪改革に携わるころ、本当の評価がなされるはずだ。【井沢真】=おわり